マーケティングやセールスを学んだ人は一度は聞いたことあるのがランチェスター戦略です。ビジネスの世界での競争に打ち勝つための戦略「ランチェスター戦略」を詳しく調べていきます。
ランチェスター戦略とは?
マーケティングやセールスの世界でよく言われるランチェスター戦略とはいったいどんなものでしょうか?
ランチェスター戦略の提唱者は実は日本人の田岡信夫という人物です。田岡信夫は日本のコンサルタントの草分け的存在で、1970年代の経済停滞期に大企業が出来上がった市場で企業がどう生き残るかを示したのがランチェスター戦略だと言われています。
ランチェスター第一法則と第二法則
ランチェスター戦略はもともとイギリス人の航空工学者フレデリック・W・ランチェスターによって考え出された「ランチェスターの法則」をもとに考案されています。
ランチェスターの法則は戦闘の勝敗を決める要素を計算する軍事理論であり、第一法則と第二法則に分かれています。
戦闘力=武器効率 × 兵力数(第一法則)
戦闘力=武器効率 × 兵力数の2乗(第二法則)
という式でそれぞれ表されます。
つまり戦闘の勝敗は兵力数と武器の殺傷効率によって決まるという式になります。
また第一法則は接近戦や局所戦、第二法則は広域戦闘や広範囲にダメージを与えられる近代兵器を用いた戦闘を想定した理論式になります。
この式からわかることは戦闘力の差は戦闘が広域になればなるほど兵力の差が大きく影響してくるということです。
ランチェスター戦略を営業や販売に生かすために
さて、このランチェスターの法則をもとにしたランチェスター戦略はトヨタやソフトバンク、HISといった大手企業から、ベンチャー・中小企業まで幅広く取り入れられてきました。
戦闘力=武器効率 × 兵力数(第一法則)
戦闘力=武器効率 × 兵力数の2乗(第二法則)
このランチェスターの法則を営業や販売などに応用するために、
- null
- 戦闘力=営業力、販売力
- 武器効率=商品の魅力、ブランド力、宣伝の質、営業マンのスキル
- 兵力数=営業人員の数、製造現場の生産数、売り場面積
というふうに置き換えて考えていきます。
すると自社の戦力とライバル企業の戦力差がはっきりと数値化できるようになります。
差別化戦略とミート戦略
ランチェスターの法則によって自社の営業力や販売力が可視化されると、自社がどういう戦略をとっていけば良いかがわかっていきます。
自社の営業力・販売力がライバル企業より小さい場合は、ランチェスターの法則に則って、なるべく局所戦、接近戦に持ち込んだほうが有利ということがわかります。人員をかけて勝負しても勝ち目がないからです。
また広域に呼びかけるような宣伝方法ではなく、なるべく地域を限定して、顧客と1対1で対話できるような営業のほうが有利になります。
そのほか武器効率をなるべく強化するべく営業の質を上げていったり、商品に付加価値をつけライバル企業に差をつけていくことが重要になってきます。
こうした戦略は「差別化戦略」と呼ばれます。
逆に自社の営業力・販売力がライバル企業より大きい場合はランチェスターの法則に則って、広域戦、拡散戦に持ちこんだほうが有利です。
販路を拡大し、テレビCMや雑誌広告など幅広く宣伝し、営業スタッフを増員することで、シェアを拡大し、やがて市場を支配していくことができます。
また、ライバル企業の長所を自社にも取り込み、同等レベルの商品を常に安定して供給できるようにすることで、当初局地的にシェアを奪われていた分野の商品でも顧客を獲得できるようになれます。
こうした戦略は「ミート戦略」と呼ばれます。
ランチェスター戦略の事例
では実際にランチェスター戦略を取り入れ、実践した事例をみていきたいと思います。
セブンイレブン
セブンイレブンはコンビニ業界では圧倒的ナンバー1の企業ですが、実は数年前までは進出していないエリアがあるなど、コンビニ業界ではそこまで地域シェアが大きくありませんでした。
大手コンビニチェーン・ローソンのお膝元である大阪に進出したときは「ドミナント戦略」と呼ばれる戦略を駆使し、徐々に集客力で逆転していったことで有名です。
ドミナント戦略とは1カ所の地域に何店舗も同時に開店させることで住民への認知力と心理的抵抗感をなくし、集客力をあげる戦略です。
ドミナント戦略によってパート・アルバイトの人員も同地域でシェアできるため効率よくお店を運営させることにも成功しました。
まさにこのドミナント戦略こそがランチェスター戦略でいうところの「局地戦」だったのです。
また、セブンイレブンはフィルム入りおにぎり、おでんの販売、挽き立てコーヒーのマシン導入、金のハンバーグなどのプライベートブランドの投入などをいち早く始め、セブンイレブンの差別化に成功しています。
トリンプ
トリンプはワコールに次ぐ第2位の女性用下着メーカーです。「天使のブラ」「恋するブラ」といったユニークなネーミングのブラを販売し、差別化戦略を徹底することによって業界第2位まで上り詰めています。
また、「早朝会議」「ノー残業デー」といった独自のマネジメントがマスコミに注目されることで、自社の商品の広告に利用するといった逆転の発想の広告戦略を用いてちゅうもくされました。
ランチェスター戦略に欠点?
ランチェスター戦略にはほとんど欠点らしい欠点はないと言われていますが、実際には失敗した事例がいくつかあります。
例えば家電メーカーのシャープは一時期液晶テレビ・モニターに集中的に投資し、「世界の亀山工場」を大々的にブランド化するなどの選択と集中というランチェスター戦略を用いました。
しかしその後韓国メーカーLGやSAMSUNGから格安の液晶が出回り、一気に市場シェアを失いシャープは経営危機に陥りました。
シャープはランチェスター戦略に則って弱者の戦術をとり、経営資源を液晶事業に集中させたはずなのになぜ負けたのでしょう?
これも実はランチェスター戦略で説明することができます。
シャープの誤算
ランチェスター戦略をもとにした弱者の戦略では武器効率を高めることが重要視されますが、LGやSAMSUNGといったシャープの競合メーカーは「価格」という部分で優位に立っており、シャープの「高付加価値」という武器を上回ってしまっていました。
そうした中で、シャープの販売戦略は大企業的なマス広告中心の宣伝に頼ったため、ランチェスター戦略のメリットである小さい市場での勝負に持ち込めなかったのが原因かと思われます。
例えば、大画面テレビを購入したら部屋に設置するところまで面倒を見てくれるといったサービスや、故障したときに無償で交換してくれるなどの行き届いたサービスを展開していれば、また結果は違ったかもしれません。
また時代は大画面液晶テレビから小型のスマートフォン・タブレットへ移行しており、テレビ事業自体が縮小傾向にあったこともシャープにとっては不運でした。
ランチェスター戦略を学ぶためのおすすめの本は
ランチェスター戦略はあまりにも有名なためいままでに多数の本が出版されています。その中でも特にわかりやすい、役に立つと評価の高い本をご紹介していきます。
戦時中の軍事戦略を起源として考案された“小能く大を制す”、つまり弱者が強者を凌駕するための経営手法がランチェスター戦略です。本書は、このビジネス戦略における基本的かつ重要なポイントを中心に厳選。図解を使いながら、経営者や管理職の方々はもちろんのこと、若手ビジネスパーソンにもわかりやすく解説しています!
自らは43年連続黒字、
指導企業750社超で5社に1社が過去最高益を実現する、
ランチェスター戦略実践法を初公開!
26社の実践事例大公開!
「ここまで公開してしまうのか! 」と早くも大反響!
古くて新しい科学的な戦略のすべてを解説しました。
あらゆる業界で大手寡占が進み、弱者が淘汰されています。今、多くの弱小企業は未曾有の危機に瀕しています。しかし、やり方次第で小であっても大に勝てます。弱者が強者に逆転できるのです。その「弱者逆転」の戦略を「わかる」から「できる」のレベルに到達することを目的として著したのが本書です。競争戦略のバイブル「ランチェスター戦略」はビジネスにおける共通言語です。本書では、局地戦、一点集中主義、差別化、接近戦、No.1主義、という大切な共通言語を5つのストーリーマンガにしました。「ランチェスター戦略」の真髄と実践がよりわかりやすく理解でき、使える内容となっています。マンガの舞台は都会のビルの谷間にひっそりとたたずむバー「ランチェスター」。カウンターバーの向こうにいるのは、枯れた感じのマスターと、なぜかメイド服の女子大生ラン。さあ、今夜も悩めるビジネスパーソンがバーの扉を開ける時間がやって来ました。
ランチェスター戦略まとめ
ランチェスター戦略は非常に優れた理論であり、ほとんどのビジネスでの応用が可能となっています。
しかし、実際の運用には難しい部分もあり、様々な事例をしっかり学んでから適用するべきでしょう。